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The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch
ソクラテスの書棚

【ソクラテスの書棚】岩木一麻作「がん消滅の罠-完全寛解の謎-」

中島 友紀
岩木一麻「がん消滅の罠-完全寛解の謎」
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「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」、あれは悪魔のことだったのだろうか。-(本文から)―

呼吸器内科医の夏目から余命半年の宣告を受けたがん患者で、生命保険の生前給付を受け取ってすぐに、治るはずのないがんがきれいに消滅してしまう。
しかも同様の保険金支払いが立て続けに起き、生命保険会社から不正受給の可能性を指摘される夏目。
連続して起きるがんの完全寛解は、神の成せる奇跡なのか?それもと何かの陰謀なのか?
不審感を抱いた夏目は、がん研究者で友人の羽島と調査を始める。
そして、がんの早期発見、治療を得意とし、再発してもがんを完全寛解に導くという病院、湾岸医療センターの存在にたどり着く。
そこで、がんを患った政治家や資産家、裏社会など有力者たちから支持を受けていたのは、夏目の大学時代の恩師で、理事長を務める西條だった。
西條は、湾岸医療センターで、どの様にして完全にがんを消滅させているのか?革新的な治療法が開発されたのか?いったい、がん治療の世界で何が起こっているのか?
夏目は、西條が大学教授を辞める時の言葉に思いを馳せる。
西條の行っている医療は、本当に救済なのか?または、巧妙な詐欺やトリックなのか?
次第に真相が明らかになるにつれ、事態は拉致殺人事件へとエスカレートしていく。
そして、西條が探し続けていた娘の命を奪った“仇の真実”とはいったい・・・。
2017年第15回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作

医学の最新知見をふんだんに盛り込んだ最高級の本格医療ミステリー小説であり、心震わせるヒューマンドラマでもある。それもそのはず、著者は日本がん研究センターでの勤務経験がある異色の作家だ。がん治療の最前線で日夜奮闘する夏目は、高校の同級生である妻を大切にする家庭人。資産家でありながらも、がん研究に邁進しいまだに独り者の羽島。妻子を亡くし大学を辞職した元教授の西條“先生”。彼らの人生が、長い時を越えて、また、交差したとき、物語は加速していく。作中で夏目と羽島が推測するがん消滅のトリックは、研究に従事した人なら、“なるほど!”と思う仮説であり、ついついその巧妙な筆力に引き込まれてしまう。著者の綿密な下調べのもと記載されている膨大な医科学の知識は、理系の読者層にも納得であろう。そして、読者の想像を掻き立てる“がんを消滅させる時限装置”とはいったい何か?また、本作では、西條がなぜ大学を辞めたのか?そして、何のためにがんを消滅させるのかも大きな謎であり、ストーリーを構成する鍵である。西條の人生は、一人娘を失ったことから狂い始め、その仇を探し復讐をすることが生きるモチベーションになっている。その仇の真実が判明した時、大きな落胆と切なさ、そして、小さな救いが見事に表現されている。人生のすれ違いや人間の残酷さが強調される一方で、家族愛など人間が持つ素晴らしい面も多く本作では描かれている。そして、読者は、ラストの数ページで、西條が仕掛けた本当の救済計画を知ることとなる!驚愕のラスト、是非、お勧めしたい一冊である。本作は、大賞受賞時の題名「救済のネオプラズム」から、改名されて発刊となった。