骨やすめ

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The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch
骨やすめ映画館

【骨やすめ映画館】映画の話 エミリー・ブラント

大薗 恵一

 人間長く生きていると、ちょっと良いこともあります。それは、オリジナル作品を知っていることです。「メリー・ポピンズ」はジュリー・アンドリュース主演のミュージカル映画で、封切り当時小学生になる直前くらいだったと思いますが、見た記憶があります(制作は1964年、日本公開は1965年)。アニメと実写の融合場面など、当時としては画期的な演出で、魔法をつかえる教育係のジュリー・アンドリュース扮するメリー・ポピンズが傘をさして空からやって来るファンタジー映画です。当時子どもだった私は、メリー・ポピンズが魔法を使えることには何の違和感もありませんでしたが、人々が路上や屋上で歌って踊るのが不思議で、そんな国があるのかと思ってしまいました。

「メリー・ポピンズ リターンズ」
「メリー・ポピンズ リターンズ」
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 それから、54年して続編ができました。それが、「メリー・ポピンズ リターンズ」で、今回は、エミリー・ブラントがメリー・ポピンズを演じます。私の好きな女優さんです。歌もうまく、明るくて、でもキリリとしていて、メリー・ポピンズにぴったりでした。また、オリジナルで、メリー・ポピンズと一緒に歌って踊る煙突掃除屋さん(大道芸人でもある)を演じたディック・ヴァン・ダイクが、「リターンズ」では、もう90歳を超えていますが、机の上でタップダンスを披露します。お若い!

「砂漠でサーモン・フィッシング」
「砂漠でサーモン・フィッシング」
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「クワイエット・プレイス」
「クワイエット・プレイス」
Copyright © 2018, 2019 Paramount Pictures.

 エミリー・ブラント?Who?と思われる方もいるかもしれませんが、「プラダを着た悪魔」で主役のアン・ハサウェイにちょっと辛く当たる先輩秘書と言えばわかるのではないでしょうか?この映画は、パワハラの塊のようなメリル・ストリープ演じる上司とキャリアを積み上げていくアン・ハサウェイの2人がメインキャストで、実際の女優としてのキャリアとも重なる映画です。ファッション界を舞台しているので、華やかではありますが、影もあり、コミカルなのにシリアスな映画で、人気がありますし、何度見ても飽きません。エミリー・ブラントには、スポットライトはあたっていませんが、意地悪でも芯の性格は悪くなく、自分なりに必死に努力しているのだろうなと、今は好意的に受け止められるのではないでしょうか。上司には名前を覚えてもらえないし、風邪をひいたり、骨折したりしても、休めないしという悲哀をうまく出しています。この映画で共演したメリル・ストリープは「メリー・ポピンズ リターンズ」でも共演しています。

 「オール・ユー・ニード・イズ・キル」では、トム・クルーズと共演して、アクション俳優としても目覚めていて、鍛えられた筋肉を披露しています。トム・クルーズが何度も時間をリセットして強い敵に向かっていく映画といえば思い出すでしょうか?彼が主演映画のヒロインと言えば山ほどいますが、彼よりも強いヒロインは、エミリーだけでしょう(バニラ・スカイのキャメロン・ディアスは別の意味で怖かったですが)。

 さらに、「ボーダーライン」では、ジョッシュ・ブローニン(アベンジャーズシリーズのラスボスのサノス役。サノスの映像はVFXですが、モーションキャプチャーでブローニンの動きや表情を忠実に再現しています)、ベニチオ・デル・トロ(チェ・ゲバラの役で知られていますが、私のおすすめ映画は「21グラム」)という男臭い、強烈な顔面の2人を相手に、正義感あふれるFBI捜査官を演じます。男勝りの活躍というより、男社会の論理の古臭さに戸惑う感じが良いです。

 私の映画好きのお友達の中島友紀先生にエミリー・ブラントの話をしたら、彼女の出演映画として「砂漠でサーモンフィッシング」を勧めてもらいました。ユアン・マクレガーとの共演で、中東イエメンの富豪が出資して、砂漠に川を作り、鮭を放流して、釣りをする計画を実行しようとする映画です。ユアンは真面目な水産学者、エミリーは有能なコンサルタント。どちらも、パートナーとしっくりいってなくて、このプロジェクトを成功させるために奔走しているうちに2人の間に恋愛感情が生まれて---、というタイトルの割にはありがちなストーリーですが、主演の2人が、演技力もさることながら、本当にそのような性格なのだろうなと思わせるので、絶対に応援したくなってしまいます。

 最近のヒット作は「クワイエット・プレイス」で、耳の聞こえない娘の母役です。音を立てると襲ってくる怪物に支配された状況で、手話を用いつつ生き延びようとする一家の物語です。一種のホラー映画ですが、あまり怖くありませんので、ホラー映画が苦手な人にもお勧めです。エミリーは妊娠していて出産するのですが、赤ちゃんの鳴き声をどう抑えるのか、ちょっとしたアイデアが盛り込まれています。監督でこの一家の主人の役のジョン・クラシンスキーは、実際のエミリーの配偶者で、息もぴったりです。ラストシーンのエミリーのかっこよさに痺れること間違いなしです。

 どうです、エミリー・ブラントの映画を見たくなりましたか?雑誌「VOUGE」のエミリーのインタビューが動画で見られますので、一度御覧ください。彼女はロンドン出身でBritish Englishを話し、次々と繰り出される質問に、いろいろと楽しいエピソードを加えながら答えてくれます。演技を始めたのは吃音を治すためだったということです。「プラダを着た悪魔」を見てからの方が、細かいジョークが分かって良いと思いますが、そうでなくても、彼女の人柄の良さがにじみ出ていて、好印象を持てると思います。